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電力ビジネスの公益性2013.05.05 Sunday
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JUGEMテーマ:政治全般〜国会・内閣・行政
経済書(新書を中心に)100冊を読む 2−2
電力ビジネスの新潮流 桑原鉄也著 を読む 2
エネルギー・フォーラム 2008年7月8日初版第1刷
日本をどうする?国民が学ばなければ、政治は動かない。 74
本書を買ってから長い間本棚に眠らせたままだった。3.11のこともありもう読むことは無いかも知れないと思っていたが、最近のニュースを読むにつけて潮流の本筋は変わっていないのではないかと思えるようになってきた。シェールガスやトリュウム原発のこともあり潮目は変わってきたかも知れないが、満潮・干潮の差でしかないように思えて本書を手にしました。
日本の成長戦略の重要課題の一つはエネルギーコストの問題です。国民の暮らし、産業のすべての領域において影響力は大きい。再生可能エネルギーにおいてもコストの点での競争力がなければ需要は伸び悩み、投資は遠ざかっていく。消費は投資の結果なので、消費は伸びない。電気料金の値上げは成長の足かせとなる。安全で環境に優しく、廉価なエネルギーを実現するためのエネルギー革命が早急に求められている。
毎日新聞 2013年04月29日 大阪朝刊
特集:関電が来月、家庭電気料金値上げ 生活直撃、月457円増
関西電力は5月1日、家庭向け電気料金を平均で9・75%値上げする。東京電力福島第1原発事故以降、全国の原発が相次いで停止する中、原発への依存度が高い関電は代替の火力発電の燃料費が膨張、値上げしないと巨額赤字を解消できないとの立場だ。値上げは家計を直撃するだけに、あの手この手の節電や電気料金の抑制策にも注目が集まりそうだ。企業向け料金は4月1日から値上げされており、中小企業はコスト増に苦慮している。【久田宏、宇都宮裕一、鈴木一也】
第2章では電気事業の制度改革により「顧客の求める品質を損なわずに電気料金の値下げが実現した」というところまで紹介した。
・・・
第3章は、「環境意識の高まりと電カビジネス」と題し、人類存続への喫緊の課題として注目が高まっている地球温暖化問題の動向と、わが国における地球温暖化問題への対応、発電時にCO2を発生しないことから、温暖化対策の切り札として脚光を浴びる原子力発電の位置付けおよび課題などについて解説する。
・環境を保護するための規制手法
1 キャップ
2 ビグー税
3 トレード
・京都議定書
「環境」というテーマで、ここまで広く世界的な合意がなされたことはなかった。
疑問点
議定書の目標が達成されても、世界全体のGHG排出量は2%しか減らない。
世界最大の排出国である米国が離脱。途上国には排出削減義務が課せられなかった。
・地球温暖化に対応する電力ビジネスの技術
「ヒートポンプ」
「電気自動車・プラグインハイブリッド車」
「二酸化炭素回収・貯留技術」
原子力発電と環境問題
・放射性廃棄物の処分にあたっては2005年の「原子力政策大綱」に以下のとおり考え方の原則が示され、それに基づいて検討が進んでいる。
1.発生者責任の原則
2.放射性廃棄物最小化の原則
3.合理的な処理・処分の原則
4.国民との相互理解に基づく実施の原則
・高レベル放射性廃棄物
2000年5月に制定された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」により、深度300メートル以上の安定した地盤に「地層処分」されることとなった。しかし、処分地の選定については、事前の地層調査の候補地も決まっていない。原子力発電所が「トイレなきマンション」と揶揄されるのは、最終処分地が決まっていないことによる。
・低レベル放射性廃棄物
「余裕深度処分」「浅地中ピット処分」「浅地中トレンチ処分」
・低レベル放射性廃棄物埋設センター(青森県六ヶ所村)
・TRU廃棄物の問題
原子番号がウランより大きいネプツニウム、アメリシウム、キュリウム等の天然には存在しない原子を含んでいる。
第4章は、「エネルギー価格高騰下における電カビジネス」と題し、資源エネルギーの国際的な争奪戦の激化と、その中でわが国の電力ビジネスが抱える課題やそれらへの対応について記述する。資源ナショナリズムの高まりや、中国・インドといった新興国の著しいエネルギー需要の増加により、国際資源市場の需給状況が悪化する中で、ここでも「準国産エネルギー」である原子力への期待が高まっている。
原油をはじめとしたエネルギー価格は不安定な動きをする
・新興国の趨勢的な需要伸長予測、厳冬など季節要因による需要増加、もしくは産油国の協調による減産、油田・製油所の事故等による供給力の減少といった事象が起こった場合、変動幅が需要・供給量全体に占める割合は小さくても急激に価格が上昇することになる。
・先進国も含めた資源争奪戦
・資源所有国による資源囲い込み「資源ナショナリズム」
2006年「新・国家エネルギー戦略」
一次エネルギー自給率が4%(2005年度‥原子力を除く)とエネルギー資源のほとんどを輸入に頼っているわが国にとっては、エネルギー価格の高騰は経済活動全般に影響を及ぼす大きな問題である。
2006年5月、経済産業省資源エネルギー庁は、「新・国家エネルギー戦略」という中長期ビジョンを公表した。そこでは、「国民に信頼されるエネルギー安全保障の確立」を大きな目標として、エネルギー需給構造の変革、資源外交の強化、備蓄制度等の見直しによる緊急時対応策の充実を目指し、2030年までに左記の5つの数値目標を掲げている。
・少なくとも30%エネルギー効率を改善する。
・一次エネルギー全体に占める石油依存度を、40%を下回る水準に下げる。
・運輸部門における石油依存度を80%程度に下げる。
・原子力発電の発電量比率を30〜40%程度以上にする。
・自主開発原油取引量比率を40%程度に引き上げる。
これを踏まえた政策の方針については、省エネルギーの推進、新エネルギーの普及促進、原子力立国計画、エネルギー資源確保のための総合的な国家戦略等多岐に及んでいる。実現可能な具体策(法案や投資内容等)にまで踏み込んだものではないが、政府として、エネルギー安全保障を国家レベルの問題であると強く認識し、官民が緊密に連携して取り組んでいかなければならないという危機意識を顕したことに意義があるのではないだろうか。
わが国の石炭火力発電所は高い燃料効率を誇っており、また排気を浄化する脱硫・脱硝・脱炭技術等のクリーンコールテクノロジー(CCT:Clean Coal Technology)が駆使されている。米国・中国・インドの石炭火力発電所をわが国の最新鋭石炭火力発電所並みの燃料効率に引き上げることができれば、それだけで10億トン前後(わが国の年間総排出量の約8割)ものCO2排出が削減できると試算されている。わが国の電力ビジネスは、こうした技術を新興国へ移転することによって、資源エネルギー問題を解決し自らのエネルギーセキュリティを高められるだけでなく、地球環境問題の解決にも大きく貢献することができるだろう。
・2000年小売部分自由化時に導入された「燃料費調整制度」
そもそも「他の産業では燃料費高騰分の価格転嫁がなかなかできないのに、エネルギーだけ容易に転嫁できるのはおかしい」という制度自体への批判もあり、制度見直しによって、もしくは(同制度が適用されない)自由化範囲の拡大によって、燃料費価格の料金への転嫁は困難になるかも知れない。電力ビジネスにとって、化石燃料価格の高騰は今後さらに大きなリスク要因となりうるだろう。
原子燃料の調達
・とはいっても、国内にウラン鉱山があって原子燃料を自給できているわけではなく、燃料の天然ウランは現在全量を輸入に頼っている。
・天然ウランの購入費用は発電費全体に占める割合の10%にも満たない
・原子燃料は、一度装てんすると一年程度利用できること、再処理によって再び利用できることなどから、「準国産エネルギー」として位置づけられている。わが国の一次エネルギー自給率は既述の通り4%程度であるが、原子力を含めると20%程度になる。これらのことから、わが国のエネルギーセキュリティに対して原子力の果たす役割は非常に大きいと考えられているのである。
・ウラン濃縮技術は各国独自のノウハウがあり、技術開発競争も盛んである。
・原子燃料サイクル
軽水炉でプルトニウムを含んだMOX燃料を燃やすことには一部に抵抗もあるが、そもそもプルトニウムは軽水炉内で生成されて燃焼していること、フランスやドイツ等欧州を中心にMOX燃料の使用実績が多数あることなどから、今後わが国でもMOX燃料の利用は進んでいくものと考えられる。
新しいエネルギー
・オイルサンド(およびオイルシェール)
・メタンハイグレード
化石燃料ではない「新エネルギー」
・太陽光、風力発電、バイオマス燃料
問題点――エネルギー密度が低い。発電時の出力が安定しない。
第5章
・・・わが国電力ビジネスもまさに様々な経営環境変化の下で短期的には収益確保・利益向上および資本市場対策、長期的には安定供給と地球環境問題への対応、さらには企業価値創造のモデル確立という多くの課題に同時に向き合わなければならない位置にいる。
こうした経営の多元化、複合化は、設立以来「事業基盤確立→電源開発→公害対策→石油危機への対応(脱石油)→自由化対応(財務圧縮と効率化)」といった経営の中心課題が比較的明確な時代が長かったわが国電力ビジネスにとって新しい経験といえる。
第6章では、「世界の電力ビジネスの新潮流」と題し、世界各地での電力ビジネスに関する最新動向を紹介している。2007年7月の第三次EU指令案でさらなる電力自由化進展を目指すかに見えるEU、カリフォルニア電力危機以降自由化が停滞し、「再規制」の動きすら見られる米国の動向の他、世界各地で広がる「電力ルネサンス」の流れと電力ビジネスにおける投資ファンドの動きについて取り扱う。
『グローカル』
・電気という財は、世界中のどこであっても同じように利用されている財でありながら、実際には送電線というネットワークの通じているローカルな範囲でしか取引できない。そのため、世界的な環境変化に左右されながらも、個々の国や地域独自の事情に合わせたルールで運用されているのが電力ビジネスなのである。
・電力を含む公益事業に対する外資の参加や他地域に本拠を置く企業からの買収は、たとえそれが効率化をもたらす可能性があるとしても、ローカルな立場の国・地域当局や地元の住民にとっては歓迎されにくい。こうした中で、電気事業制度もより「公益的な」視点を重視したものとならざるをえないだろう。
・電力ビジネスは、「決して無視できない世界的な環境の変化」にいかに対応し、その変化によって「無視できない影響を受ける国や地域」にいかに貢献するかが問われるビジネスである。
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スポンサーサイト2016.04.17 Sunday
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